黒い傷痕の男


黒い傷痕の男(上)(下) (作者: 佐藤まさあき 出版社: サニー出版 発行:2000年)

書影(下巻の表紙はあんまり好きじゃないので上巻を載せました)
佐藤まさあきの代表作『黒い傷痕の男』。
もともとは貸本マンガだったのですが、のちに漫画ゴラクで書き直したものをまとめたのがこの本。
あらすじはと言うと、主人公・鉄也は九州の炭鉱出身。国のエネルギー政策の転換で炭鉱が閉鎖され暮らしは一気に貧しくなり、同じ炭鉱の住人だった恋人も人買いに売られて東京へ行ってしまいます。病身の母と幼い妹を残し恋人を探しに東京へ上京するものの、金は底をつきつい出来心からスリそしてしまうのですが、それが集団でスリをしているグループに見つかりその仲間に引き入れられてしまった所からどんどんと人生が狂いだし…、といった内容で、豊かな東京の暮らしと飢餓地獄の炭鉱のあまりの落差に愕然とし、社会を恨み、どんどんと犯罪を重ねていく主人公の境遇にどことなく永山則夫を思い出しました。といっても永山則夫連続射殺事件より貸本版『黒い傷痕の男』は前に描かれているのですが、なんとなくこう言う時代だったのかなと、ふとそんな事を思わざるおえません。
それから何十年もたち不況とは言っても豊かな日本でも秋葉原通り魔事件のように、似たような要素をはらんでいると私には思われる事件が起こっている。その事が妙に心に引っ掛かりました。
不幸な境遇でも犯罪を起こす人と起こさない人がいるのだから個人の資質の問題だとは言うけれど、でも、やっぱりそれだけじゃないと私はつい思ってしまうのです。
『黒い傷痕の男』のラストは警官との激しい銃撃戦で主人公は銃殺されます。結局は敗北するしかない、世の中は変わらないという虚しさが募るラストです。この虚しさがなんとなく今とリンクしているような気がしてしまうのでした。