火花―北条民雄の生涯

火花―北条民雄の生涯 (角川文庫)

火花―北条民雄の生涯 (角川文庫)


とある雑誌の書評で見かけて本屋で注文したところ品切れだったので古本を入手。
この本は北条民雄というハンセン病を患いながらも、療養所の中で小説をこころざし、川端康成を通じて作品を発表した小説家の評伝。
普段、本を読むときはなんとなく読む、あるいは興味あることを調べる、あるいは暇つぶし、そんな理由から本を読むことが多いと思うのですが(小説を自分で書くというような人は違うかもしれませんが)、北条民雄とっての文学というのはもっと切羽詰まったもので、自分の生き方を求めたり、あるいは自分の生きた証を残す、世間から隔絶された療養所の中から社会とつながる唯一の方法だったということがとても印象に残った。また、ハンセン病という当時は非常に差別され業病とまで言われた病気にかかるという不幸な運命に身を置いたからこそ、物事の本質を見抜く目を獲得できたという、表現者としてはある種の幸福なのだろうけど、皮肉な宿命について考えさせられた。書くことが救いでもあり、しかし書くことがさらに自分を追い込み、病気を悪化させるもとにもなる。そういうぎりぎりの所で本のタイトルに『火花』とあるけれど、まさしく火花のように一瞬の閃光のような生き方だと思った。


この本を読むまで北条民雄という小説家の存在さえ知らなかった。今度、この小説家の本を読んでみたいと思った。
また、北条を支えた川端康成についても興味をもったので、何か作品を読んでみたい。